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浦和地方裁判所 昭和43年(ワ)658号 判決 1970年1月19日

主文

被告らは各自原告に対し、金九二九、五九四円及びこれに対する昭和四三年一一月一五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は、原告において各被告に対し金一〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、第一項に限り、それぞれ仮に執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨及びこれに対する答弁

原告訴訟代理人は、「被告らは各自原告に対し、金一、二六九、七二〇円及びこれに対する昭和四三年一一月一五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被告ら訴訟代理人は請求棄却の判決を求めた。

第二、請求原因

一、(事故の発生)

原告は昭和四三年二月二七日午前二時三〇分頃その所有の自家用四輪自動車(埼そ二〇二二号)(以下原告車という)を運転して東京方面から越谷方面に向つて進行し、埼玉県草加市神明一丁目一〇番一四号先道路の交差点において左折のため一時停止中のところ、被告三国コカ・コーラボトリング株式会社(以下被告会社という)の運転手被告伊藤文夫(以下被告伊藤という)の運転する被告会社所有の普通貨物自動車(埼四む三九二四号)(以下被告車という)によつて追突された。

二、(被告伊藤の過失)

右追突事故は被告伊藤のブレーキの掛け遅れ及び前方注視義務を怠つた結果発生したものである。

三、(被告らの責任)

よつて被告伊藤は不法行為者として民法第七〇九条により、被告会社は被告伊藤の使用者並びに被告車の保有者として民法第七一五条第一項並びに自動車損害賠償保障法第三条により、それぞれ本件事故により原告が蒙つた後記損害を賠償すべき責任がある。

四、(損害)

(一)  原告が支払つた医療費 金一五、〇〇〇円

原告は本件追突事故により頭部を強く打撃し、外傷性頸性頭痛症等の傷害を負い、昭和四三年二月二七日から同年四月二六日まで浦和市の名古屋病院に通院し、その翌日から同年八月下旬まで東京都立大久保病院に通院加療し、医療費として自ら金一五、〇〇〇円を支払い、同額の損害を蒙つた。

(二)  得べかりし利益の喪失 金九四九、一六〇円

原告は自ら自動車を所有し、訴外有限会社東洋プレス工業所の製品を専属的に運送し、右訴外会社から昭和四二年一一月金二三二、九〇〇円・同年一二月金二七〇、二七五円・昭和四三年一月金二〇四、六五〇円・同年二月金二四一、三二五円の運送費の支払を受けているので、右運送費の一ケ月の平均は金二三七、二九〇円であるところ、原告は前記傷害により事故後二ケ月位は全く仕事ができなかつたから労働不能二ケ月分の利益喪失は金四七四、五八〇円となり、更に事故後三ケ月目から六ケ月までの四ケ月間は従来の労働能力二分の一程度の仕事しかできなかつたので右四ケ月分の利益喪失は金四七四、五八〇円となる。

(三)  自動車の修理代 金五、五六〇円

原告は本件追突事故により原告車を破損され、修理代金五、五六〇円を支払い、同額の損害を蒙つた。

(四)  慰藉料 金三〇〇、〇〇〇円

原告は、本件事故により多大の精神的苦痛を受けたものであつて、これを慰藉するには金三〇〇、〇〇〇円の支払を受けるのが相当である。

五、(結論)

よつて被告らは各自原告に対し、四(一)(二)(三)(四)の合計金一、二六九、七二〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年一一月一五日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三、請求原因に対する被告の認否

請求原因第一、二、三項は認める。同第四項は不知。

第四、証拠〔略〕

理由

一、(事故の発生、被告伊藤の過失、被告らの地位)

被告伊藤は被告会社に運転手として雇われ運転業務に従事していること、原告は昭和四三年二月二七日午前二時三〇分頃その所有の原告車を東京方面から越谷方面へ向け運転し、埼玉県草加市神明一丁目一〇番一四号先道路の交差点において左折のため一時停止中のところ、被告伊藤の運転する被告会社所有の被告車によつて追突されたこと、右追突事故は被告伊藤のブレーキの掛け遅れ及び前方注視義務を怠つた結果発生したものであること、は当事者間に争いはない。

二、(被告らの責任)

よつて被告伊藤は不法行為者として民法第七〇九条により、被告会社は被告伊藤の使用者並びに被告車の保有者として民法第七一五条第一項並びに自動車損害賠償保障法第三条により、それぞれ本件事故により原告が蒙つた後記損害を賠償すべき責任がある。

三、(損害)

(一)  原告が支払つた医療費

〔証拠略〕を総合すると、原告は本件追突事故により頭部を強く打撃し、外傷性頸性頭痛症等の傷害を負い、昭和四三年二月二七日から同年四月二六日まで浦和市の名古屋病院に通院しその翌日から同年八月下旬まで東京都立大久保病院に通院加療し、医療費として自ら金一五、〇〇〇円を支払つたことが認められ、同額の損害を蒙つたことになる。

(二)  得べかりし利益の喪失

〔証拠略〕を総合すると、原告は自ら自動車を所有し昭和四一年から訴外有限会社東洋プレス工業所の製品を専属的に運送し、右訴外会社から昭和四二年一一月金二三二、九〇〇円・同年一二月金二七〇、二七五円・昭和四三年一月金二〇四、六五〇円・同年二月金二四一、三二五円の運送費の支払を受けているので右運送費の一ケ月の平均は金二三七、二八七円(円未満切捨)であること、原告は本件事故による傷害により事故後二ケ月は全く仕事ができず、次の二ケ月は労働能力二分の一程度となり、最後の二ケ月は労働能力三分の一程度となつたこと、原告の自動車運送事業の経営の必要経費は自動車の原価償却・ガソリン代等で収入の三割位であるから純利益は収入の七割位となること、が認められる。右の認定事実によると原告は本件事故により事故後二ケ月分の得べかりし純益として金四七四、五七四円の七割にあたる金三三二、二〇一円(円未満切捨)、次の二ケ月分の得べかりし純益として金二三七、二八七円の七割にあたる金一六六、一〇〇円(円未満切捨)、最後の二ケ月分の得べかりし純益として金一五八、一九一円(円未満切捨)の七割にあたる金一一〇、七三三円(円未満切捨)(合計金六〇九、〇三四円)を喪失したというべきである。

(道路運送法第四条第一項によれば「自動車運送事業を経営しようとする者は、運輸大臣の免許を受けなければならない」ところ、〔証拠略〕によると原告は運輸大臣の免許を受けずして昭和四一年から自動車運送事業を経営していることが認められるから、原告の自動車運送事業の経営は道路運送法第四条第一項に違反することになるが、原告がその事業の過程において訴外有限会社東洋プレス工業所と締結する運送契約が公序良俗ないし社会の倫理観念に反する不法な行為として私法上当然無効となるものではなく、原告は右契約に基づき右東洋プレス工業所に対し運送賃の支払を請求し得る権利を有し、右権利に基づき運送賃を受領することができるから、原告が運輸大臣の免許を受けないで自動車運送事業を経営していることは原告が被告に対し前認定の得べかりし利益の損害賠償の請求をすることについてなんら妨げとなるものではない。)(昭和三七年(オ)第一三〇〇号、昭和三九年一〇月二九日第一小法廷判決、最高裁判所判例集第一八巻第八号一八二三頁)

(三)  自動車の修理代

〔証拠略〕によると、原告は本件追突事故による原告車を破損され原告は谷口自動車整備工場にてこれを修理し、その修理代金として金五、五六〇円を支払つたことが認められるから、原告は同額の損害を蒙つたことになる。

(四)  慰藉料

〔証拠略〕を総合すると、原告は本件追突事故により頭部を強く打撃し、外傷性頸性頭痛症等の傷害を負い約六ケ月間通院治療したが、現在でも頭の具合が悪いことが認められ、原告は本件追突事故によつて多大の精神的苦痛を受けたことが推認される。右事実とその他本件全証拠によつて認められる諸般の事情を斟酌すれば、原告の受けるべき慰藉料の額は金三〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。

四、(結論)

よつて原告の本訴請求中、被告ら各自に対し三、(一)(二)(三)(四)の合計金九二九、五九四円の支払を求める限度においては理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条を仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松澤二郎)

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